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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2851号 判決 1966年6月07日

控訴人 磐悌観光株式会社

被控訴人 株式会社山口製作所

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

被控訴人主張の請求原因事実は、控訴人が本件各約束手形を訴外亜細亜塗装株式会社に交付したとの主張部分を除きすべて当事者間に争いがない。

そこで右争点について考えるに、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、原審証人梅本平治郎、原審および当審証人降旗良平、当審証人百沢弥一、同江口菊雄の各証言(いずれも後に措信しない部分を除く)を総合すると、次の事実が認められる。

一、控訴会社は昭和三八年一二月二三日訴外亜細亜塗装株式会社(以下たんに訴外会社という)より所謂融通手形として同会社代表取締役星浩個人の名義で振り出された、受取人欄を白地とするほかその他の手形要件の記載はすべて被控訴会社主張のとおりの約束手形三通(甲第一ないし第三号証の本件各手形)の交付を受けた。控訴会社ではこれらの手形を他で割引を受けるため白地の受取人欄を補充するにあたり、その第一裏書人欄に裏書するのは用いたのと同一の控訴会社の記名ゴム印を押捺してしまった。そのため控訴会社では右外観より本件各手形が融通手形であることを察知され、第三者から割引を受けられないことを懸念し、訴外会社に各手形の差替方(再発行)を申し入れていたところ、昭和三九年一月二一月訴外会社の取締役である梅本平治郎が、控訴会社に受取人欄に控訴会社名をペン書で記載したほかはすべて本件各手形と同様の手形要件を記載した約束手形三通を持参した。そこで控訴会社の経理事務を担当していた取締役降旗良平は、同会社の社長室において江口、吉沢の両取締役立会の上右差替にかかる各手形を本件各手形と対照し、その要件の記載が同一であることを確かめた上これを受領した。間もなく、右江口、吉沢の両名はその席を離れ、降旗も本件各手形をその裏書部分を抹消することなく応接用机の上に置いたまま所要で隣室に立ち去った。梅本はそのすきに黙ってこれを訴外会社に持ち帰った。

一、控訴会社では同年四月初旬被控訴会社から本件各手形金の請求を受けるまで、右各手形が控訴会社の手元にないことに気付かず、訴外会社に対し梅本が右各手形を持ち帰った所為につき特段の抗議を申し述べた事実もなかった。原審および当審における前顕各証人の証言中以上認定に牴触する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定した事実に徴して考えると、本件右手形差替の事務処理を担当した降旗は訴外会社が前記のとおり新手形を発行しても新たな経済的負担を負うものではなく、たんに旧手形と差し替えるにすぎないものであるから、控訴会社より新手形を受領した以上、本件各手形は同会社に返還すべきものと考えていたものであり、したがって梅本において同手形を訴外会社に持ち帰ること暗黙の裡に了承しつつこれを応接机の上に置いたままその席を立ち去り、また梅本においても同様に同手形を受領して訴外会社に持ち帰るのを当然のことと考えていたので特に断りもせずこれを持ち帰ったものと推認するのが相当である。

前顕証人降旗良平の証言によると降旗は梅本より右新手形を受領した際用務に忙殺されており、そのため旧手形である本件各手形の控訴会社の裏書部分を抹消することを失念したことが窺えるが、このことは同人が本件各手形を訴外会社に返還すべきものと考えていたとの前段認定となんら牴触するものではない。

そうだとすると、控訴会社は訴外会社に対し本件各手形を任意交付したものであって、訴外会社がその裏書部分を抹消しなかったことは直接の手形当事者間の人的抗弁事由となるにすぎないものというべきである。

ところで、本件においては、他に本件各手形金の請求を拒むに足る事由につき主張立証がないのであるから、被控訴会社の本件各手形金合計金七二四、〇〇〇円およびそのうち右各手形金相当部分に対する各満期の翌日以降支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める本訴請求は正当であって、これを認容すべきである。

よって、これと同趣旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから<以下省略>。

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